説教
年間第２主日（C年 2022/1/16）
ヨハネ2：1−11
父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。
先に、「主の公現」、そして「主の洗礼」を続けて祝いました。さらに続けて今主日、教会は、ヨハネによる福音から、ヨハネが「主の最初のしるし」と呼んだ、ガリラヤのカナの婚宴での主キリストの奇跡からお聞きしました。
主キリストの公現、主の洗礼、さらにカナの婚宴の奇跡を続けて祝うのには訳があります。実は、典礼の歴史の中で、教会がこれら三つのことを一つに祝った時代があったからです。今でも、『聖務日課：教会の祈り』の「主の公現の祭日の朝の祈り」の「福音の歌（ザカリヤの歌）の交唱」は、伝統的な次の祈りを伝えています。「今日、花嫁教会は天の花婿と一つに結ばれた。花婿キリストが、花嫁教会をヨルダン川で清めてくださったから。博士たちは王キリストの婚宴に急ぎ来て、捧げものを捧げた。婚礼の客たちは歓喜した。キリストが水をブドウ酒に変えられたから。」（『教会の祈り』日本語版では、この祈りは変更されています。）
現代のわたしたちは、聖書を個人的に読むことに慣れています。しかし教会には、上記の祈りの如く、「教会」が自らを「花嫁」とし、主キリストを「花婿」として福音に聞いて来た長い歴史があります。そこでは、「花婿」キリストと「花嫁」教会の「婚宴」で、「花婿」から直接に福音を聞かせていただく花嫁教会の溢れるような喜びが、現代のわたしたちには羨ましい程に素直に告白されています。
婚宴では、「花婿」キリストの喜びは、「花嫁」教会の喜びと一つです。花婿キリストと、花嫁教会は、愛において堅く結ばれているからです。花婿キリストは花嫁教会に一切を与え、花嫁教会は花婿キリストのすべてを受け入れ、また自らのすべてを花婿キリストに捧げます。今日のヨハネによる福音の伝える「婚宴」で現わされた「主キリストの最初のしるし」を、教会は「花婿」キリストと「花嫁」である教会自身の間に成就された愛の奇跡と信じたのです。
ところで、今日の福音で、ガリラヤのカナの婚宴での主キリストの奇跡を、「主の最初のしるし」と呼んだ福音記者ヨハネは、同時に、この奇跡によって、「主キリストが栄光を現わされた」とも語っていました。「主キリストの栄光」とは、御子キリストが、目に見えない天の父なる神の輝きと聖霊による愛のみ力を、目に見える形でわたしたちに現わされたことです。
それにしても「主キリストの最初のしるし」同時に「主の栄光」が、意外な場所で現わされたことに驚きを覚えます。それは、エルサレム神殿の奥深い至聖所でも無く、神の在す天に近い高い山の頂きでもなく、カナと言うガリラヤ地方の寒村の、しかも貧しい一組の新婚の夫婦の婚宴です。婚宴の続く中、貧しい二人の用意したぶどう酒はすぐに尽きてしまいます。あまりにも日常的な場面です。
しかし、と思います。わたしたちが神のみ力や神の憐れみを、切にかつ喘ぐように求めているのは、わたしたちが、逃げることも、避けることもできない日常の生活においてではないでしょうか。そこで次々に起こってくる問題や試練、苦しみや悩み、悲しみと絶望の中でこそ、わたしたちは神を求めるのではないでしょうか。主キリストは、そのようなわたしたちの、欠けの多い日常の中で「栄光」を現わされた。だからこそ、主キリストは、わたしたちの「福音」なのです。
そして、そこにはマリアさまがいらっしゃいます。マリアさまは、貧しい新婚の夫妻の用意したぶどう酒が尽きたことにいち早く気づきます。そして主キリストに「ぶどう酒がなくなりました」と告げ、続けて召使たちに、「この人が何か言いつけたら、そのとおりにしてください」と語ったと、福音は伝えていました。
マリアさまは、わたしたちの欠けに、すぐに気づいてくださり、それを主キリストに取り次いでくださいました。その際マリアさまは、その解決の一切を、主に完全に委ね切っておられます。ご自分の考えや願いを超えて、主キリストが常に最善をなさることに、母マリアさまは信頼し切っておられるからです。
同時に、母マリアさまの細かくわたしたちを案じてくださる思いを、主キリストが大切に受留めてくださった。そのように主が、欠けの多いわたしたちへのマリアさまのお心遣いと祈りを大事にしてくださったことは、わたしたちの大きな慰めです。主の母マリアさまは、わたしたちの母でもあります。
ヨハネは、続けて主キリストが水を「良いぶどう酒」に変えてくださったことを伝え、「イエスは、この最初のしるしをガリラヤのカナで行って、その栄光を現わされた。それで、弟子たちはイエスを信じた」と、物語を結んでいました。
問題の解決だけを主キリストに求めるのではなく、問題ごと主に委ねる。それが主キリストを信じること。その時、主ご自身がわたしたちの人生の解決です。
父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。
