カトリック上福岡教会

説教

主の晩餐の夕べのミサ(B年 2021/4/1)

ヨハネ13:1−15

父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。

聖木曜日。主キリストの晩餐の夕べのごミサを祝う度に、昔、わたしが英国で、ユダヤ人の友人の家庭の春の「過越の祭」の食卓に招かれた時のことを思い出します。

ユダヤの人々は、古い仕来りのままにユダヤ暦ニサンの月の14日の過越の晩、家族ごとに食卓に集います。家長のブドウの盃による祝福によって過越の祭儀は開始され、詩編の朗詠に続き、今日わたしたちがお聞きした出エジプトの物語が朗読されます。続いて、家長はパンを取り、感謝の祈りを捧げた後、パンを裂き、一同に配ります。その後、食事の終わりに、再度、家長からのブドウの杯による祝福を以て、過越の祭の食卓は閉じられます。ルカによる福音が正確に伝えている通りの順序です。

ユダヤ人の友の家庭で過越の祭の食卓に加えていただき、福音書の伝える主キリストと十二人の弟子たちの過越の祭の食卓、「最後の晩餐」の様子を心に思い浮かべていた時、ふとわたしたちが囲んでいる彼らの家庭の過越の食卓の最も大切と思われる席が空席であることに気付きました。ユダヤ人の友人によれば、それは、待ち望んでいるメシア・キリストのために、大切に空けてある席だとのことでした。

それを聞いて、ああ、ここには主キリストがいらっしゃらないのだなと、それまでの感動に代えて、突然一切が虚ろにさえ感じられた事を覚えています。

しかし、今、わたしたちの祝っているこのごミサは、違います。わたしたちの過越の食卓の主は、メシア・キリストご自身です。ただし、それは決して自明のことではないのです。これは、ユダヤの人々にとっては、未だに衝撃的な出来事なのです。

実に主キリストご自身が、ご自身の過越の食卓に十二人の弟子たちを、そして今日わたしたちをもお招きくださった。この衝撃的な出来事を、ヨハネによる福音は、この食卓に主ご自身が弟子たち一人ひとりの足を洗って、つまり彼らを最も大切な客であり友として迎えてくださったというさらに驚くべき事実をもって語り始めます。ごミサ、つまり主の過越の祭りの食卓は、そのようにして始められたのです。

しかもそれだけではありません。この主キリストの過越の食卓で、わたしたちのために裂かれるパンとわたしたちのために注がれるブドウ酒。それは、主ご自身です。実に、主ご自身の御からだと御血です。マルコによる福音は、次のように伝えます。「一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、賛美のいのりを唱えて、それを裂き、弟子たちに与えて言われた。『取りなさい。これはわたしのからだである。』また、杯を取り、感謝の祈りを唱えて、彼らにお渡しになった。彼らは皆その杯から飲んだ。そして、イエスは言われた。『これは、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。』」

これが、主キリストと弟子たちの過越の食事。これが、主とわたしたちのごミサです。

ユダヤの人々のみならず、わたしたちも悩みや苦労の多い人生で、救い主キリストをひたすら待ち望んできた日々があったのではないでしょうか。折角、主のために食卓を整えて待っていても、いつも主の席が空席のままのような、長く虚ろな時間に疲れ切ってしまった時が、かつての皆さんにもあったのではないでしょうか。

しかし今日は違います。このごミサは、主キリストご自身がわたしたちのために整えてくださった食卓。ルカの福音によれば、「イエスは言われた。『苦しみを受ける前に、あなたがたと共にこの過ぎ越しの食事をしたいと、わたしは切に願っていた』。」 

食事の前に、わたしたち一人ひとりの足をご自身で洗ってくださるほどに、救い主キリストご自身が切に願ってくださっておられた主とわたしたちとの過越の祝い

わたしたちは長い間、自分の願いの中に主キリストを求め続けて来ました。しかし今、このごミサで、主キリストご自身の切なる願いの中にわたしたちが招かれています。主キリストの切なる願い。それは、ご自身のすべてを、ご自身の御からだ、さらにご自身の御血の最後の一滴に至るまで、わたしたちにくださること。それは、わたしたちをご自身のいのちに生かし、わたしたちにみ国を来たらせてくださるためです。

救い主キリストを待ち望んできたわたしたちの願いに先立ち、わたしたちをご自身の愛の内に、ご自身のみ国に招き入れたいとの主の切なる願いが、わたしたちに向けられてあったのです。そして今、わたしたちはこのごミサで主ご自身のわたしたちへの限りなく深い願いの中に、強く、優しくまた確実に抱きしめられてよいのです。

救い主キリストのわたしたちへの切なる願いに抱かれて、今、わたしたちは、このごミサ、メシア・キリストご自身の食卓で、「神の国への過越」を祝っています。

父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。

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