カトリック上福岡教会

説教

年間第32主日(B年 2021/11/7)

マルコ12:38−44

父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。

先の主日に続き今日の福音も、主キリストのエルサレムでの聖週間(最後の一週間)の、特に火曜日の出来事を伝えています。主は神殿を訪ねておられます。そこで、主は、神にささげものをしていた「一人の貧しいやもめ」とお会いになられます。

ところで、福音は、エルサレム神殿でのこの「やもめのささげもの」のエピソードの直前に主キリストの律法学者に対する厳しい非難、また直後に主の「神殿の崩壊の予告」を伝えていますが、これらすべては深く関係しあっていると思います。

マルコによる福音は、主キリストの「エルサレム神殿崩壊の予告」を、主の弟子の一人の「先生、ご覧ください。なんとすばらしい建物でしょう」との、当時の巨大なエルサレム神殿に対する讃嘆の言葉を受けて、「これらの大きな建物を見ているのか。一つの石もここで崩されずに他の石の上に残ることはない」との、短い、しかし実に鋭い主のおことばを伝えるに留めています。

これに対して、週日のごミサで続けてお聞きしているルカによる福音(13章)は、エルサレム入城を間近に控えての、エルサレムの町、とくにエルサレムの神殿に対する、主キリストの深い嘆きのおことばを、次のように丁寧に伝えています。

「わたしは今日も明日も、その次の日も旅を続けなければならない。預言者がエルサレム以外の地で死に遭うことはありえないからである。エルサレム、エルサレム、預言者を殺し、自分に遣わされた人を石で打ち殺す者、めんどりが雛を翼の下に集めるように、わたしはいくたび、あなたの子らを集めようとしたことであろう。しかし、あなたがたはそれに応じようとしなかった。見なさい、あなたがたの神殿は見捨てられたまま残されるであろう。」(14:33−35)

エルサレムは、主キリストが遣わされる千年以上前から、神なる主が、ご自身の「み名」をこの地上に置かれるために、主によって選ばれていた町です。そのエルサレムには、主なる神のご臨在の目に見える徴として、「神のみことば」を記した「十戒」の石の板が納められた「聖櫃」を護持すべく神殿が建てられ、その神殿に人々が集い、神のみことばに聞き、神を正しく礼拝することが許されてきました。そのようにエルサレムは、「神の都」とさえ呼ばれ、主キリストの時に至るまで、神の民イスラエルの信仰生活の中心であり続けてきました。聖書に語られる通りです。

そのエルサレムに集う人々に求められたのは、ただ一つのことでした。それは、神を神とさせていただくこと。すなわち、神を畏れ、神のみ前に人として謙遜に生きること。ただしそれは、神のみことばに正しく聞くことにのみよる、ことです。

しかし、エルサレムは、過去にも、くり返し罪を犯して来ました。彼らが神のみことばを聞き入れないという罪です。ただしそれは、決して彼らの心の内でのことに留まらず、極めて具体的な形をとりました。彼らは、「(神が彼らのためにみことばを託し、神が彼らの救いのために遣わした)預言者を石で打ち殺」して来たのです。

主キリストは、今、この都が再び、しかも決定的な仕方で「神のみことばを聞きいれない」罪をくり返すことになることを知っておられます。しかも、「神のみことば」である主キリストご自身に対して。みことばご自身である「神の御子」を十字架につけて殺すというエルサレムの信じがたい罪ゆえに、主は深く嘆かれたのです。

主キリストのエルサレム神殿の崩壊の予告と、律法学者に対する主の厳しい非難は、無関係ではあり得ません。律法学者は本来、神殿に集うすべての人々が、律法、すなわち神のみことばに聞き、みことばによって主のみ前に神の民として整えられるために、律法の教師として立てられていた者であったはず、だからです。

しかし、彼らは、神のみことばに畏れと謙遜を以って聞くことをせず、したがって神のみ前に、律法によって彼らが託された民はおろか、自らを整えることさえできず、神と人との前に自らを誇る者へと傲慢の罪に堕してしまっていました。「このような者たちは、人一倍厳しい裁きを受けることになる」と、主キリストは仰せでした。

律法学者をかくも厳しく非難される主キリストを慰めるように、神殿に「一人の貧しいやもめ」が現れます。主は、この婦人に対して、次のように仰せです。「この貧しいやもめは、神にだれよりもたくさん献げた。皆は有り余る中から入れたが、この人は、乏しい中から自分の持っている物をすべて献げたからである。」

律法学者たちの誇りとした地上のエルサレムの神殿は崩壊します。しかし貧しいやもめたちのために、新しい神殿が建てられます。それはご復活の主キリストご自身です。ただしそれは、エルサレムでの主の十字架の死を経てのことです。

父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。

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