カトリック上福岡教会

説教

年間第14主日(A年 2020/7/5)

マタイ11:25−30

父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。

「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう。わたしは柔和で謙遜な者だから、わたしの軛(くびき)を負い、わたしに学びなさい。そうすれば、あなたがたは安らぎを得られる。わたしの軛は負いやすく、わたしの荷は軽いからである。」

人生に悩み、疲れを覚え、あるいは後悔や絶望の中に蹲(うずくま)っていた時、この主キリストのみことばに慰められ、再び立ちあがる勇気を与えられた方は多いのではないでしょうか。しかしこれは、実は、不思議な主のおことばではないでしょうか。

人生に、負うべき「軛」や「重荷」が無ければと、私たちは願います。しかし、本来、弱く、限界があり、加えて、神と人とに対する罪から自由ではない私たちにとって、「軛」あるいは「重荷」、すなわち「私たちの十字架」をまったく負うことのない人生、否、むしろ、「私たちが、本来負うべき十字架」を負おうとしない人生は、かえって自らと他者を、さらには神をも、欺くものではないでしょうか。

もちろん、「神の子キリストが負わねばならない十字架」というようなものがあろうはずはありません。しかし、「弱く、罪に汚れた私たちが負うべき十字架」を、主キリストは、私たちに「あなたの軛、あなたの十字架」とは仰らず、驚くべき事に、わたしの軛」、「わたしの荷」、すなわち「わたしの十字架」と、仰ってくださるのです。

その上で、本来は私たちが負うべき「私たちの十字架」を、主キリストは私たちに、ご自身と共にわたしの軛」「わたしの荷」すなわち「わたしの十字架」を、一緒に負ってくれないかと仰せになっておられるのです。私は、この主のおことばに私自身の言葉を失います。ただ、主に合掌し、主を礼拝させていただくばかりです。

ところで、主キリストのこのおことばは、十二人の使徒たちをお選びになり、「神の国の福音」の宣教に遣わされるに際して、弟子たちに語られた主のおことばです。実は、主は、弟子たちを町や村に宣教に遣わされるに先立って、予めご自身で全ての町や村を訪ねておられました。マタイによる福音は、そのことを、次のように伝えています。「イエスは町や村を残らず回って、会堂で教え、み国の福音を宣べ伝え、ありとあらゆる病気や患いを癒された。」(9:35)

ただしその時、それらの全ての町や村で、主キリストがご覧になられた、他でも無い「私たち」は、どのような様子だったのでしょうか。マタイは続けます。

「(主キリストは)、また、群衆が飼い主のいない羊のように弱り果て、打ちひしがれているのを見て、深く憐れまれた。」(9:36)

ここで「打ちひしがれている」とは、フランシスコ会訳聖書のように、むしろ「倒れている」、さらには「死にかけている」と強く訳すこともできる言葉です。

これが、主キリストが十二使徒たちを「働き手」としてお遣わしになられるに先立って、主ご自身の目で確認された「飼い主のいない」「私たち」の姿です。しかしなぜ、私たちには「飼い主がいない」のでしょうか。実は、「飼い主」はいらっしゃるのです。もちろんそれは、神です。私たちには「飼い主がいない」のではなく、「飼い主である神から、自分から離れて」しまったのです。その結果、「弱り果て、打ちひしがれ、死にかけて」いたのです。誰のせいでも無い、私たちの愚かさ、否、罪ゆえにです。

主ご自身で確認された、「飼い主を失い、弱り果て、人生の途上で倒れ、死にかけているような」私たちと私たちの人生の現実ゆえに、主キリストは、十二使徒をお選びになり、宣教、さらに司牧に遣わされたのです。マタイは、さらに続けます。

「そこで、弟子たちに言われた。『収穫は多いが、働き手が少ない。だから、収穫のために働き手を送って下さるように、収穫の主に願いなさい。』」(9:37f)

「収穫は多いが、働き手は少ない」と主キリストは仰せです。ただし主は、何を、否、誰を「収穫」されるのでしょうか。私たちが羨むような物、あるいは私たちと違い知恵と徳に優れた人々でしょうか。そうではありません。「飼い主を失い、弱り果て、人生の半ばで倒れ、最早自分で立ちあがる事のできない」私たちです。

主キリストは、このような私たちを、父なる神から与えられる掛替えのないご自身の宝(ヨハネ10:29)として、大切に「収穫」してくださるのです。そのために私たちの弱さと罪の一切をご自身の十字架として負い抜いてくださることさえ顧みずに。

主キリストは仰せです。「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう。…私の軛は負いやすく、わたしの荷は軽いからである。」

父と子と聖霊のみ名によって。  アーメン。

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