説教
年間第３０主日（A年 2020/10/25）
マタイ22：34−40
父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。
「『心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』これがいちばん重要な、第一の掟である。 第二もこれに似ている。『隣人をあなた自身のように愛しなさい。』 すべての律法と預言者は、この二つの掟に基づいている。」
これは、「律法の中でどの掟がいちばん重要ですか」との律法の専門家の問いにお応えになられた、主キリストのおことばです。
神の律法とは、神の民の出エジプトの後、神がご自身の民、ひいては私たちすべてに、モーセを通して懇ろにお語りくださった神のことばの全体です。主キリストは、その神の律法の全体が、「神を愛し、隣人を愛しなさい」との二つの掟に基づいている（あるいは、集約される）と仰せになりました。そうであれば、この二つの掟とは、主なる神の私たちへの最も切なる「願い」です。神ご自身の私たちへの「祈り」です。
「祈り」は、私たちの信仰生活の要です。ただし、忘れてはならないことがあります。それは、主キリストがいつもそうであられたように、私たちに先んじて神が祈ってくださっておられると言うことです。むしろ、神は私たちを祈りにおいて創造してくださったと言うべきかもしれません。神は祈りの中で私たちを子として産んでくださった。そしてご自身の祈りをもって、神は私たちを養ってくださっておられます。
ちょうど幼子が母の言葉を聞きながら育ち、母の言葉を真似て言葉を身につけて行くように、私たちも神なる主キリストの祈りの内に命を与えられ、神の祈りによって養われ、神の祈りを聞いて、神のことばを真似て祈りを身につけて行くのではないか。私たちが祈るのも、神の私たちへの祈りに応えてなのではないでしょうか。
あらためて、主キリストと弟子たちのことを思います。主の弟子たちは、主キリストの祈りによって主とともなる生活へと招かれ、つねに主キリストの祈りの内に養われ続ける中で、「主よ、私たちに祈りを教えてください」と、主にお願いしました。「主の祈り」は、このようにして弟子たちに、そして私たちに与えられたものです。
祈りとは、私たちが自分の知恵や力で始められるものではありません。主キリストに始められ、主から私たちに与えられるものです。祈りとは、聖霊において働かれる主キリストからの私たちへの賜物であり、聖霊が私たちの内に結ぶ実です。
「心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。」「隣人をあなた自身のように愛しなさい。」これは、主キリストの私たちへの祈りであり、切なる願いです。しかし私たちは、時に、主キリストのこの祈りを私の祈りとして祈り得ない自分、主キリストの願いに生きることを拒むような自分の罪の現実に、自分で自身におののくのではないでしょうか。
しかし、使徒パウロは教えています。「（聖）霊も私たちの弱さを助けてくださいます。私たちはどのように祈るべきかを知りませんが、霊ご自身が、言葉に表せない呻きを通して、私たちのために執りなしてくださる。」この聖霊なる神こそ、元来、私たちに、「イエスは主である」と信じ、告白させてくださった方です。しかもこの聖霊こそ、ごミサの内に働き、私たちの捧げる「パンとブドウ酒」をキリストご自身の御からだと御血、すなわちキリストご自身のいのちに変えてくださる方に他なりません。
主キリストは、私たちに祈りをお与えくださるだけではありません。私たちに祈りとともに聖霊をお与えくださり、その聖霊によって私たちの内に働いて、主キリストの祈りを私たちの内に成就させてくださいます。主は聖霊によって、私たちが主キリストご自身の祈りを私たちの祈りとして祈り、主キリストの願いを私たちの願いとして生きることができるようにしてくださいます。これが、私たちの主キリストです。
「主よ、祈ることを教えてください」と、私たちも主キリストに願います。その願いに応えて、主が私たちにくださるのは、祈りだけではありません。同時に主は、私たちに聖霊をくださいます。それは、主キリストご自身をくださると言うことです。聖霊は、主キリストの霊・主キリストの息、つまり主キリストご自身のいのちだからです。
今、私たちもこのごミサで、主キリストの十二弟子たちのように、「主よ、私たちに祈りを教えてください」と、主に願います。主キリストは、十二弟子たちにご自身の「祈り」をくださったように、私たちにも必ずご自身の「祈り」をくださいます。それは、主にとっては、私たちにご自身のいのちをくださることです。聖霊によって。
主キリストの私たちへの愛は、私たちの主への思いを遥かに超えています。それは、主がいつも私たちに先んじて、私たちのために祈ってくださっておられるからです。
父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。
